育て上げブログ

2016年10月12日

JTレポート:あのつらさはもう経験したくない。5年間働いて思うこと。


先日、内閣府が「ひきこもり」と呼ばれる若者が54万人いるという調査を発表しました。今年の大学センター試験受験者が同じくらいの人数だそうです。受験生も「ひきこもり」も、数字で聞くとなんとなくの規模はイメージできるかと思います。けれど、ストーリーはいかがでしょうか。受験生のひとりひとりが異なるように、「ひきこもり」と呼ばれる若者ひとりひとりにもストーリーがあります。今回はそのひとつの形をご紹介します。

 

罪悪感

ひきこもるようになったのは大学を辞めたころでした。一番辛かったのは罪悪感をずっと抱えていたこと。「何もしていない自分」への不安や申し訳なさを感じるたび、家族と顔を合わせるのも嫌になりました。朝は出勤する人や学校に行く人たちの存在が罪悪感を強くするんです。どんどん、朝が来るのが怖くなって夜更かしが続くうち、昼夜逆転の生活を送るようになりました。しばらくはそんな状態でとにかく自分を責めて、責めて、どうにかしなければと思うのですが、どうしたらいいかわからない。
それを15年間続けたんです。つらいですよ。これ以上、つらいことなんてないと思います。図書館や散歩に出かけることもありましたが、考えることはどこでも一緒です。結局は何をしても暇つぶしです。ゲームもテレビも本もどれも面白いわけではなくて、暇つぶしなんです。遊んでばかりって思われるかもしれませんが、どうしたらいいかわからないから時間をつぶすためにやってました。

 

「やっぱり働いてほしい」

私が20代後半くらいのころ、姉に子どもが生まれました。その子が小学生になるくらいになったとき、姉が実家に帰ってきて「これからどうするの?」と聞いてきました。たぶん、母や父とも相談した上でのことだったんだと思います。それから、4人揃っての家族会議が始まりました。
今まで家族は私を腫れ物のような扱いをして、仕事のことも、将来のことも、一切聞いてきませんでした。ずっと放置されていると思い込んでいました。でも、そこで父がいろいろな相談機関に行っていたことを知り、心配されていたことに気付きました。私もはじめて「どうにかしたいと思っている。でもここまできてしまった。もうどうにもならない」と家族に打ち明けました。お互いの気持ちがわかったところで、返ってきた言葉は「やっぱり働いてほしい」ということでした。
家族会議をきっかけに私たちは動き出すようになりました。それから父と支援機関に行ったときに、ジョブトレを紹介してもらいまました。実はジョブトレのことは知っていました。図書館で自分のような人のことを調べていた時期に本で読んだんです。だけど、当時は書いてあることを信じたい気持ちと自分が参加できるかの不安が交錯して消極的なまま参加しました。

 

1年半のジョブトレ

実際、ジョブトレに参加すると何も苦ではありませんでした。作業も一通り体験しましたがどれも楽しかった。それは、今まで感じていた罪悪感がなかったからです。2時間かかる家との往復をしているときも、どんな作業をしているときも「何もしていないとき」に比べたら不安はまったくありません。それだけで気が楽になりました。ジョブトレには1年半くらいいました。普通よりは少し長かったと思います。でも、15年に比べたら一瞬です。どうってことありません。
仕事の選り好みができる状態ではないということは自分でもわかっていました。だから、好きなことや興味があること以上に雇ってくれる場所を探して、なんとか今の職場を見つけました。5年くらい同じところで働き続けていて、今は現場責任者として入ってきた方の指導や面接などを担当することもあります。

 

当時の自分に話しかけるなら

当時から変わったのは「生きていてもいいのかな」と思えるようになったことです。仕事は確かに大変なことが多いし、指導をする立場にあるからこそ、クレームを受けることも多くなります。でも、そんな生活だったとしても、罪悪感と自己否定に悩んでいたときに比べればなんてことない。お客様から感謝の言葉をいただいたりすることが嬉しいですし、以前の生活に戻りたくないので仕事を辞める気はないです。自己肯定ができるようになった感じでしょうか。人って変われるんですね、あの頃はそれも信じられなかったけれど、もし当時の自分と話せるなら、教えてあげたいです。

 

スタッフからみて

今回、この方を取り上げたのは実は経緯があります。私たちジョブトレのスタッフは大阪マラソンのチャリティランナーとして走ることが決まりました。そのことを知った卒業生や保護者の方からご寄付という形でたくさんのご協力をいただきました。取り上げたこの方も「恩返しがしたい」「何か今悩んでいる若者たちにできることをしたい」と、まっすぐな言葉と共に応援してくださっています。

ジョブトレできっかけをつかんだのは確かかもしれません。でも、それはご本人が頑張ったからこその結果です。そのうえでこうして支えてくださることは大変うれしいことです。勇気を出してジョブトレに参加すると決めた方と伴走できるのは、卒業していった方々が私たちを支えてくださっているからこそ。その大切さを改めて実感しました。

 

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