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2022年01月31日

「働くのがほんと楽しみなんすよね」の意味


扉を開けると、踊り場でひとりの若者が座ってスマホを見ていました。僕は、いつものように「おつかれさま~」と声をかけます。 

 すると、彼は一呼吸おいて、「働くのがほんと楽しみなんすよね」と言いました。さまざまな経緯があり、うまく仕事に就けなかった彼は、ジョブトレ職員とともに、地域や企業の協力してくださる方々を回りました。 

一般的な就職活動よりも、ひとのつながりから彼の人となりを見てもらう方が、仕事が決まりやすいのではないかという判断もありました。 

昨年末からの地道なつながりの蓄積で、彼にはたくさんの「頼りになる大人」が見つかりました。また、ジョブトレを通じて、職員や仲間ができました。社会的に孤立した状況に、少しずつつながりの細い糸が紡がれ始めました。 

希望職種はあるもの、選択肢が明確な分だけ仕事探しも難航するかに思われました。しかし、事情を聞きつけたある方が、彼の経歴やキャリアを含めて、一緒にやっていこうと言ってくださいました。 

具体的な業務内容や時給が提示され、働き始める時期も決まりました。僕はそのことを知らないまま、踊り場で彼に会い、彼の声をもらったんです。 

「働くのがほんと楽しみなんすよね」 

働きたいけれど、なかなか働くことに到達しなかった彼にとって、不安や戸惑いがもっとあるかと思いました。しかし、彼は楽しみにすることができており、むしろ、僕は「スタートダッシュかけすぎず、ゆっくり丁寧にやっていったらいいんじゃないかな」と伝えました。 

彼は少し恥ずかしそうな表情で、「そうっすよね。まずは生活リズムを整えないとですね。夕方とか運動したら、夜もちゃんと寝られていいっすよね」と、目をキラキラさせています。 

働けない経験がなかったり、過去の職場でよい経験や関係に恵まれないと、なかなか働くことが楽しみとは思えないかもしれません。初めての仕事、初めての職場では不安が先行しやすいようにも思えます。 

しかし、応援してくれるひとたちの土台の上に、つながりのなかで見つけた「働く」は、そのような不安よりも、楽しみな気持ちが勝るんだということを、彼の言葉は教えてくれました。 

就労支援は、そのひとに合った「働く」を一緒に考え、その実現のために伴走することだと、育て上げネットでは考えています。それが雇われることの場合もあれば、雇われない選択肢ということもあります。また、伴走支援は言葉にすると耳心地がよい部分がありますが、ひとりの若者のために職員も時間をともにし、多くの方々のお力をお借りできる状況は、経営的にも、運営的にも簡単ではありません。 

彼の「働くのがほんと楽しみなんすよね」と社会に希望を見出すことができるまで伴走することができたのは、私たちを信じてご支援くださった皆様のおかげです。多くの若者に、一人ひとりにしっかりと伴走することを同時に実現することは難しく、それを可能にしてくださるのは、育て上げネットを応援してくださる多くのひとたち、地域のみなさま、そして職員の相互サポートがあってのものです。 

もっともっと、働くのを楽しみできる若者の声を聴けるように、若者を応援していきます。 

 理事長 工藤啓


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