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2017年10月31日

いつの間にか「雇われる支援」になっていた就労支援。 


今年も法定検診の結果がオッケーだった工藤です。自分では身体に異変を感じることはないのですが、あくまでも感覚値でしかないので、客観的な数値を見ると安堵します。それでも、ほぼ毎回血圧は測り直しで、なぜか50台-80台という低めにボールが集まります。

各現場を回ってよく耳にするようになった「グレーゾーン」「ボーダー」という言葉をずっともやもや考えていました。その言葉自体が含意するのは、福祉と労働の間であったり、健康と何かしらの病気や障がいの診断が出てないが若者自身が苦しんでいるはざまであったり、いろいろです。

いろいろ考え、職員と話をするなかで、若者はもちろん、支援者も悩んでいる。その悩みに何か本質的なものがあるのだろうかと、探し物がどうしても見つからない感じで、あちこち手を伸ばしては、あれじゃない、これじゃないと右往左往していました。

そこで少し引いてみたとき、何となく見えてきたのは、知らない間に就労支援が就職支援、つまり、「雇われる支援」に近づき、ほとんど同じものに変容しているのではないかという疑問です。

雇われることや、そのための支援がダメというわけではありません。むしろ、私たちが出会う若者の大半はどこかの企業に、何かしらの雇用契約のもとで働き始めることを望んでいます。もしかしたら、それは仮の希望であり、本当はもっと異なる働き方や稼ぎ方、生き方を望んでいるかもしれません。

しかしながら、雇われることを強く意識しているわけではないのですが、気が付かぬ間に、目の前の若者がいかに雇われるのか。どういう産業や業界であれば雇われやすいのか。言い換えれば、どのような職場や職業であれば力を発揮できるだろうかという視点になっていたのではないだろうかと考えるようになりました。

例えば、ジョブトレという就労支援プログラムでは、90%以上の若者がどこかに雇われていきますが、その後、何年も「いまはどうしているのか」という継続性を測っています。例えば、働き始めて(それを卒業といいます)3年以上、何かしらの形で働いている卒業生は80%を超えます。それもまたどこかの企業に所属していることが圧倒的多数なわけですが、なかには仲間と起業している若者もいます。経営状況までは把握しなくとも、本人が幸せであればそれでオッケーなわけです。
先日、たちかわ若者サポートステーションを利用していた若者が起業したという話もありました。国の委託事業ですが、基本的に「就職」がゴール設定されています。起業もひとつのゴールではありますが、就職というメインストリームがあっての起業という位置づけです。もしかしたら、雇用保険からの予算が活用されているため雇用保険被保険者になることをゴールにしなければならない事情があるのかもしれません。

また、母親の会「結(ゆい)」では、毎月、フリマアプリなどを活用して数万円を稼ぐ子どもを持つ保護者の悩みがありました。両親としては“ちゃんと働いてほしい”という気持ちと、一方で、一定程度稼いでいる現実の狭間で悩んでいるようでした。ひとりで生活設計を立てるほどの稼ぎではないが、無収入でもない。そういう状況下において、両親は子どもの状況をどう判断すべきなのか迷われている。不安定ではあるかもしれないけれど、自分の力量で仕入れと販売をして利益を得ているという意味では、安定期前の個人事業主というとらえ方もできます。

実はこのような事例は少し埋もれがちではあっても、法人内のここかしこで出ています。大変少ない例かもしれませんが、事実として存在しています。毎年一度、全職員が集まる場で私は「働くを拡張しよう」と呼びかけました。それは知らず知らずに陥っていた“雇われる支援”を一歩進めて、就職支援だけでなく、新たな稼ぐ手段を身に着けることも就労支援のコンテンツのひとつにしていけるようにしていこう、ということです。

先日さっそく複数の職員と一緒にメルカリをやってみました。今度はsnapmartをやってみようと話をしています。ある職員はすぐにウーバイーツのデリバリーにチャレンジし、社内にレポートしました。ブログでアフィリエイトを組んでみたり、休日に専門性を活かした活動をしている職員もいます。最近話題になったvalupolcaココナラなどもやってみています。仮想通貨の世界が広がっていったら、日本円以外での収入ということも出てくるかもしれません。

いまは模索の時期であり、職員とともに試行錯誤をしているところですが、これから何十年も、100歳に迫るまで働いていくだろう私たちや若者にとって、就労支援が雇われる支援に加えて新たな価値提供ができるよう「働くを拡張」する支援を目指しています。

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理事長 工藤 啓


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