トピックス 職業適性検査

2016年10月11日

GATB、VRT等のフィードバックに必要なスキル —検査結果を活かし、支援の質を向上させるために−


 育て上げネットでは201410月からGATBVRT等のアセスメントツールを若年無業者の就労支援に試験的に導入している。
検査を受けることは、利用者にとって少なからず負担がかかる作業である。また、支援者にとっても思いもよらぬ結果が出ることもある。しかし、検査を実施したからには、どのような場合でも数値化された結果を利用者の人生に活かしていくよう努力する責任がある。現場の支援者は、結果をどのようにフィードバックし支援に活かしていけばいいのだろうか。
 支援者が求められるスキルのうち幾つかを挙げ、検査の導入からフィードバックまでの流れを概観した。またその上で、組織としてどのようなバックアップ体制をとることが可能かを考察した。

フィードバックスキル


a. 寄り添うスキル:利用者の体験に寄り添い、傾聴し、自己決定を尊重するスキル

 寄り添うスキルは、フィードバックを行う上での基本姿勢とも言えるスキルである。支援者はそれぞれの専門性を元に、自分の意見を持つが、それ以上に利用者の実感と決定を尊重する。支援者がその態度を持つことによって、短時間であっても利用者は安心し、支援者との信頼関係が構築され有意義な話し合いが可能になる。また、利用者が自己決定することは、利用者が自身の決定に責任を持つという意味で大事である。

b. 職業理解スキル:様々な職業を作業レベルで理解し、知識として蓄えるスキル

 実際の作業レベルで考えたときに利用者がどのような場面で困る可能性があるか、どのような職業であれば能力や興味を活かせるのかについて知識を豊富に持っていると、より具体的な場面を想定しながら説明できるため、説得力が増す。また、職業についての知識が多いほど具体的に提案できる可能性は広がっていく。

c. 評価スキル:概念を理解し、利用者を適切に評価するスキル

 検査の背景にある理論への概念的な理解、数値結果が示す意味の理解、利用者の結果への不安や期待に対する理解などが必要である。場合によっては医療など地域の関係機関との連携も考慮する必要があるため、正確な知識が求められる。また担当者の専門性/職種によっても評価の仕方が異なる部分である。

d. 計画策定スキル:本人の経験とアセスメント結果を元に支援を組み立てるスキル

 評価に基づき、今後どのような方向性があり得るか、いくつか支援の方向性をシミュレーションする。このとき、一つではなく複数の方向性を考えられること、それぞれを提示されたときに利用者がどのように感じるか相手の身になって考えてみることが必要である。そのなかで取捨選択を行い、いくつかを提案する。この作業は、数人で様々な角度から検討してみることも有効と考えられる。

e. コミュニケーションスキル:利用者や同僚にわかりやすく噛み砕いて伝えるスキル

 検査結果を説明する際には、利用者自身の言葉をできるだけ使って、利用者に「わかる言葉」で話していく。結果の数値は、利用者の体験と照らし合わせながら、利用者自身が身に染みて理解することで、初めて意味を持つからである。また、支援者間でも同様のことがいえる。様々なバックグラウンドを持つ支援者間で情報を共有できることは、支援の意味を明確にすることになる。そのことが、一貫性のある支援を可能にし、チームワーク向上につながる。

 必要なスキルはこれ以外にもあるかもしれない。また、支援者や背景とする専門性によって得意不得意は異なるだろう。しかし、どのスキルも、ある程度の支援経験と知識が必要である。そのため、法人内ではアセスメント担当者に一定の経験等の条件と研修時間を定めた規定を設けている。

検査の導入からフィードバックの流れ


a.検査の導入

 利用者が検査を受けることに関心を示したとき、どのようなことがわかったらいいと思うか、検査の目的を明確にしておく。問題を制限時間内にたくさん解く必要があることや、適職がすぐに見つかるわけではないことなど注意点も十分に説明し、利用者にインフォームドコンセントを行うことが大切である。それにより、支援者と利用者の間に合意が形成され、フィードバックする内容も明確になる。

b.検査実施後

 検査後は、検査時の様子と結果、利用者の今までの体験を照らし合わせて、その意味するところを理解する。今まで関わりのあった支援者から利用者の様子を聞いておく。

c.フィードバック面接

 フィードバックを受ける日は、利用者は落ち着かないのが普通である。相手をねぎらい、検査時の感想を聞く。また、検査導入時に合意した検査の目的を確認する。

d.結果の説明

 検査時の感想と結びつけながら、結果を一つずつ説明していく。利用者にとって負担の少ないものから順に説明する。

e.利用者の今までの体験と結果のつながりを探る

 検査の結果と照らし合わせながら、今までの利用者の体験について聞き、その体験が利用者の職業への興味と能力とどのようにつながっているかを一緒に探る。

f.今後の方向性を探る

 今までの体験と結果がつながり、納得感が得られたら、今後どうするかを一緒に考える。職業については作業レベルで考え、具体的にどのような生活になるのかを想像しながら話し合う。今後の方向性が見えてきたら、それに向けて、支援のなかでどのような目標を設定したらよいかを話し合う。

g.利用者に決定してもらう

 今後の可能性について利用者にいくつかの提案を行い、利用者に決定してもらう。

h.感想を聞く

 最後に、検査とフィードバックを受けての感想を聞く。検査の目的とフィードバック内容が合致していたかを確認する。ねぎらいと励ましを伝えて面談を終える。

i.検査とフィードバックについて支援者間で共有する

 利用者の経験と検査結果から考えられたこと、利用者が検査結果をどのように受け止めたか、今後の方向性について利用者が自己決定したことを支援者間で共有する。

まとめ


 フィードバックは、検査の結果を元に、利用者と支援者が今後について話し合うチャンスである。支援者が利用者の実感と体験を尊重して寄り添い、利用者が自分で決定するプロセスに必要な情報を提示し、提案を行っていくことができれば、検査は非常に有意義なものとなるだろう。

 しかし、実際に検査を支援に導入すると、様々な課題が見えて来る。普段は利用者と対等に話している支援者が、検査結果と知識を持った専門家として突如利用者の前に現れることで、お互いの関係性が変わってしまうこともある。また、使命感から支援者が伝えたうち一部の言葉のみが利用者の記憶に残ってしまい、利用者が傷つくこともある。それを防ぐために、アセスメント担当者には上記のようなスキルを持った支援者が必要になる。それでも利用者に傷つきが生じた場合には、チームで対応し、利用者を支え、担当者個人に責任を負わせてしまうことがないようにしながら、何が起きていたのかを丁寧に振り返るバックアップ体制も必要だ。組織内外のスーパーバイザーに相談することも役に立つ。
 検査が利用者にとって有意義なものになるよう、支援者が自己研鑽を積みスキルを身につけることは、利用者の成長に役立つとともに、支援者自身の成長にもつながる。また、支援機関全体の支援力向上にもつながる。

 育て上げネットでは、フィードバックの導入から、結果をどう評価しどう利用者に伝えたか、結果がどのように支援に生かされたかを確認するフィードバック研修を定期的に行っている。また、アセスメント担当者同士が交流し事例検討を行う場を設け、互いに支え合い相互研鑽を図っている。こうしたバックアップ体制によって、異なった専門性をもつ担当者同士が互いに学び合うことができるようになっている。
 現場の支援者が安心して挑戦し成長し続けることを組織として支える土壌作りもまた、支援の質向上に一役買うことになる。こうした良い循環を作り出す工夫が今後も必要と考えられた。


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